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真庭鳳凰 学パロ
「鳳凰、さん」

掠れるように頼りない声は、それさえもぎゅうと強められた彼の腕によって、温かいその鎖骨の辺りに吸い込まれていった。
どうしてこういう状況になったのか、未だよくわからなかった。
今日はいつもより月が綺麗だったというだけの、いつもと変わらない、いつも通りの一日だったはずだ。何故今日に限ってこんな真夜中に鳳凰さんの部屋を訪ねようと思ったのかはわからないけれど、
ただわかるのは、私には鳳凰さんに抱き締められているというこの状況を享受する他ない、ということだけだ。
どうしていいのかわからない。
単純に、それだけの理由であるのだけれど。

「鳳凰さん、…鳳凰さん」

鳳凰さんは私の言葉に応えない。
私自身も、ただひたすらに彼の名前を呼ぶ。それ以上の言葉が続かないのだ。何を言っていいかわからないというよりも、他に何も言ってはいけないような、そんな気がする。
鳳凰さんの部屋は真っ暗だった。そんな中、密着しているふたつの体から、それぞれの心音がやけに鮮明に耳に届く。

とくん、とくん、とくん、とくん
ああ、私も鳳凰さんも生きているんだな、なんて、どうしようもないことを考えてみたりして。

不意に、私の背中に回っていた鳳凰さんの腕の力が少しだけ弱まった。
見上げた鳳凰さんの目の中は、色んな色が綯い交ぜになって、その考えは読めそうもない。
でも、少し、かなしそうだった。
ふとして、その目に映っているのも他でもない私の目であることに気付く。私自身も、不思議なことにかなしそうな目をしていることにも気が付いた。
今も尚私の背にある鳳凰さんの手のひらは、思っていたよりもずっと大きかった。

「…もう二度と、お前を離したりはしない」

そう呟かれた声は、鳳凰さんのそれとは到底思えないほどか細いものだった。
鳳凰さんは私の唇に自身のそれを重ねる。
私の中の、いつかどこかの頭が疼く。不思議なのは、私自身も彼と同じことを望んでいることだった。


頽廃的な恋をする
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