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風魔小太郎 (無双)
二年ほど前の化石級に古いものが出土しました。
傷口がずきずきするような描写があるので、一応伏せておきます。

黒音は、ただひとり瓦屋根の下、東側の小さな門の見張りについていた。
こうして軽い武装こそしているものの、実際のところ、見張りとは名ばかりである。どうせこんな裏道から、誰も攻めては来まい。ひとつ欠伸を零したところで、黒音はやや眠たそうに目を細めた。
時刻は丑三を回ったであろうか。早く交代の時間にならないかと、時間の経過がやけに遅く感じる。
そもそも、忍びの者が見張りに出ているはずである。自分達のような一介の兵士より、その者たちに全て任せておけば良いのではないかと思わないでもない。
ぐ、と暇を持て余す余りに伸びをしようと手を上へ上げた、そのときだった。

伸ばした腕に、何か冷たいものが絡みつく。
はっと気付いたときにはもう遅い。
巻きつけられた何かごとぐいと上へ引っ張られ、黒音はその場に宙吊りになってしまった。

「…とんだ戯けよ」

頭上から聞こえた声に、黒音の顔はひくりと引き攣る。
頭だけを動かして見てみれば、屋根の上、そこには予想通りの人物が、しゃがむようにして黒音を見下ろしていた。

「風魔…」

否、見くだしていた、の方が正しいかったのかもしれない。
目線がかち合った瞬間、風魔は鎖を手にした方の腕を、ぶんと振った。
つまり、黒音は放り投げられたことになる。宙吊り状態で彼の腕力を持ってからそんなことをされれば、一介の兵士である彼女にとって、それは致命的なことに他ならないわけで。

「っ殺す気ですかっ!!」

吊るされていた方の肩を庇いながら、辛うじて受身を取った黒音であったが、その姿は埃にまみれていた。仕方あるまい、彼女はそれなりの距離、衝撃を殺せずに地面を擦ったのだ。面倒がってつけていなかったが、もしもこの時、彼女が兜を見に付けていたなら、その兜は衝撃で吹っ飛んでしまっていただろう。

「油断していたのはうぬだ」
「油断してなくてもどうせ仕掛けてきたんでしょう!」
「更に言うなら、そこに存在していたうぬが悪い」
「……」

言い返すのが億劫になった。
黒音は長く溜息を吐き、立ち上がって体についた埃を払った。その際に掌がひりりと痛んで、見てみれば擦り傷に血が滲んでいた。そうして痛覚を認識すれば、そういえば頬も痛い。触れてみた指先にも、矢張り血が付着した。

「…石で切りましたかね」

傷口がさほど汚れている風ではないのを確認して、黒音は再び溜息を零す。仮にも嫁入り前の娘になんてことをしてくれるんだ、この男は。そう思ったが口にはしない。口にしたが最後、待っているのは暴力だけだからだ。
けれど、そんな彼女の自己保身の思いも無碍にして、暴力は行使された。いつの間にか背後にいた風魔によって、黒音の体はうつ伏せに引き倒される。起き上がろうと手をつくが、それを封じるように背中に重みが。

「あのー…結局何がしたいんですか?」

抵抗することを既に諦めた黒音が、うつ伏せの状態のままがっくりと項垂れる。
こんなことをされて喜ぶような、そんな被虐的趣味はないのだが。

「さて、な」

風魔は意味有り気にそう答え、黒音の、先程吊るされた方の肩に手を伸ばした。
背後の大男が笑ったような気がした。
嫌な予感がする。
そしてその予感は的中した。
風魔は、黒音が痛めた方の肩に手を添え、ぐ、と力を込めた。

「いいいいいったああああっ!!」
「煩い」

ああ、本当にこの人は何がしたいんだ!
私に乱暴しに来ただけか!

寧ろこの大声に気付いた誰かが来てくれればいいとさえ思うが、だが運悪く現れてしまった誰かの首が上の風魔に刎ねられることは間違いがないので、黒音は極力もう大きな声は出さないようにしようと口を噤んだ。
ずきりずきりと痛む肩。そのまま添えられたままである手。また押すのか、そこを。黒音はそう思い身構えたが、そんなことはなかった。

代わりに、今度は首元に手が添えられる。その状態で風魔の指先に力が入り、黒音はそのまま上を向かされた。
仰け反るような状態である。
この体勢は割と肩に酷く負担がかかるから、止めて欲しいものである。
しかし、この風魔が、黒音の身に気を遣ってやめるはずもない。きっとこいつはそれすらも計算ずくでやっている。
上を向かされた黒音は、逆さまに見える風魔の顔を強く睨んでやった。

「ふん」

それを鼻であしらい、風魔はぐ、と黒音の顔に自分の顔を近づける。その際、首により強く指が食い込み、少々の息苦しさを感じた。
けれど、次の衝撃に比べたら、そんなものは大した問題ではなかった。
風魔の長は、黒音の、切れた頬をべろりと舐め上げたのだ。

「う、ぎゃうっ!」
「煩いと言っている」

そして、風魔はその傷口に噛み付いた。舌で傷口を抉るようになぞる。まるで血の味を吟味するかのように。
黒音は、恥ずかしいだとか言う前に、まず痛みの余りに歯を喰いしばるしかなかった。
満足したのか、ようやく離れた唇に、けれど黒音は暫く声が出せないでいた。

「こ、のやろ…」

掠れた声でそう言った黒音の目には、痛みから涙すら滲んでいる。それを見た風魔は、まぁ特に興味を示すわけでもなかったが。

「くだらぬ」

ぼつりとそう呟いて、上から退いた風魔に、黒音は『くだらないなら最初からするなよ!』と思ったが、やっぱり言わないでおいた。
己の身が一番大事である。
先程も同じことを思って、結局は無駄に終わったわけだから、実際声に出そうが出すまいが関係のないことなのかもしれないが。
次に風魔は何をする気だと身構えたが、当の本人は黒音に背を向け、さっさと何処かへ歩いていこうとする。

「あー…あの、結局何がしたかったんですか」
「さてな、足りない脳味噌で精々考えてみるがよかろう」

最後にそう暴言を吐いたところで。
風魔はその場から消えた。
消えたとしか思えない。これだから忍びの者は嫌だ、追いかけようにも追いかけられぬ。…いや、最初から追いかけるつもりもないのだが。
まるでこちらが弄ばれているようではないか。…まぁ、実際そうなのであるのだけれど。

そういえば、明日も見張り番があることを思い出し、黒音はげんなりと肩を落とした。その肩は未だにずきずきと痛んでいた。
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