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真庭木菟 03
2011.01.06 Thursday
えげつない表現 &名前変換不可
隣町の大店の奥方が、一人息子と心中を図った。
町人の出で立ちで街道を歩いていると、ふとそんな噂話が耳に入ってきた。
木菟は足を止め、若い男がしているその話に意識を向ける。
何でも、主人に先立たれてしまったらしい。とある夜が明けて、主人の部屋を訪ねてみれば――第一発見者は、例の奥方だったそうだ。
心中は未遂に終わったものの、奥方の精神状態は未だまともとは言えない状態らしい。
「………」
随分と…不格好な仕事をするしのびもいたもんだ。
そんなことを、木菟は思った。
このような結果、一寸考えれば予測できたはずである。
それ以上は有益な情報が得られそうもなかったので、木菟は誰に気付かれるでもなくその場を後にした。
鳳凰との約束の話もある。少し早めに出向いても、損はないだろうと思ってのことだった。
町人の出で立ちで街道を歩いていると、ふとそんな噂話が耳に入ってきた。
木菟は足を止め、若い男がしているその話に意識を向ける。
何でも、主人に先立たれてしまったらしい。とある夜が明けて、主人の部屋を訪ねてみれば――第一発見者は、例の奥方だったそうだ。
心中は未遂に終わったものの、奥方の精神状態は未だまともとは言えない状態らしい。
「………」
随分と…不格好な仕事をするしのびもいたもんだ。
そんなことを、木菟は思った。
このような結果、一寸考えれば予測できたはずである。
それ以上は有益な情報が得られそうもなかったので、木菟は誰に気付かれるでもなくその場を後にした。
鳳凰との約束の話もある。少し早めに出向いても、損はないだろうと思ってのことだった。
「堅苦しいのは嫌いだ。木菟でいい」
より正確に表現するなら、堅苦しいのが嫌いだと言うよりはそこに敬称をつける意義が木菟には見いだせないからだった。陳腐な表現ではあるが、己にとってそれこそ名前とは、本人であることを証明する記号でしかないと思っている節があった。
それもこれも、彼の両親に原因がなかったかと言えば嘘になる。
目の前の女は、少し迷う素振りを見せた上で「木菟さん」と彼を呼んだ。それではたいして意味がなかろうに、そうは思いながらも、訂正するのも面倒だったのでそれで済ませることにした。
黒音と名乗った女は――一言で表現するなら、馬鹿みたいに澱みのない目をした女だと思った。
けれど立ち回りから何から、油断や不遜は感じられない。もし自分が真っ向からこの女の首を取ろうとするなら、それもまた一筋縄ではいかないだろう。木菟はそんな印象を抱いていた。
殺せるか殺せないか、つまるところそれが問題である。
「そろそろゆくか」
二、三言葉を交わしたところで(彼女は何か鳳凰について思うことがあるようだが)、木菟は生温い風の音が、自然のそれと違うことに気がつく。
――まぁ、
今回限りの付き合いだ。
建前上、捨て駒にできないのは痛いが――と、
木菟は任務の遂行にのみ意識を集中させることにして、暗がりの中の闇夜を見つめた。
より正確に表現するなら、堅苦しいのが嫌いだと言うよりはそこに敬称をつける意義が木菟には見いだせないからだった。陳腐な表現ではあるが、己にとってそれこそ名前とは、本人であることを証明する記号でしかないと思っている節があった。
それもこれも、彼の両親に原因がなかったかと言えば嘘になる。
目の前の女は、少し迷う素振りを見せた上で「木菟さん」と彼を呼んだ。それではたいして意味がなかろうに、そうは思いながらも、訂正するのも面倒だったのでそれで済ませることにした。
黒音と名乗った女は――一言で表現するなら、馬鹿みたいに澱みのない目をした女だと思った。
けれど立ち回りから何から、油断や不遜は感じられない。もし自分が真っ向からこの女の首を取ろうとするなら、それもまた一筋縄ではいかないだろう。木菟はそんな印象を抱いていた。
殺せるか殺せないか、つまるところそれが問題である。
「そろそろゆくか」
二、三言葉を交わしたところで(彼女は何か鳳凰について思うことがあるようだが)、木菟は生温い風の音が、自然のそれと違うことに気がつく。
――まぁ、
今回限りの付き合いだ。
建前上、捨て駒にできないのは痛いが――と、
木菟は任務の遂行にのみ意識を集中させることにして、暗がりの中の闇夜を見つめた。
「た、助けて…くれ」
聞き飽きた命乞いの言葉だった。
引き連れていた従者は既に喉を掻ききられて絶命していた。それが木菟の仕業であったことは言うまでもない。
残すのは、今回の標的のみであった。
しかしながら――と、木菟は己の姿に怯えている男を見下ろしながら、考える。
件の女しのびの腕も、中々のものだ――と。
お陰で今回はかなり楽ができた。
木菟は、そこで帯びていた小刀を構えた。男は小さく悲鳴を上げて、木菟を見上げる。
けれど、次に聞こえてきた言葉は命乞いではなく、
「妻は、妻だけは、助けてくれ」
そのか細い言葉に、木菟はほう、と呟いた。
「妻が、いるのか」
そこで初めて、男は、自らの失態に気がついたようだった。
違う、そう撤回しようとしたのだろう。開きかけた男の口は、けれどそのまま、二度と閉じることはなかった。
「覆水不返だ。何を言ったところでもう遅い」
男の喉を掻ききったところで、今は物言わぬただの死体となった男を見下ろして、木菟は手向け代わりにそう言った。
さて、と、木菟は踵を返す。
そろそろ向こうの様子でも見に行こうか。こちらの処理はまた後に回しても構わないだろう――と、
木菟は、自前の白い髪を夜風に靡かせた。
11.01.05
聞き飽きた命乞いの言葉だった。
引き連れていた従者は既に喉を掻ききられて絶命していた。それが木菟の仕業であったことは言うまでもない。
残すのは、今回の標的のみであった。
しかしながら――と、木菟は己の姿に怯えている男を見下ろしながら、考える。
件の女しのびの腕も、中々のものだ――と。
お陰で今回はかなり楽ができた。
木菟は、そこで帯びていた小刀を構えた。男は小さく悲鳴を上げて、木菟を見上げる。
けれど、次に聞こえてきた言葉は命乞いではなく、
「妻は、妻だけは、助けてくれ」
そのか細い言葉に、木菟はほう、と呟いた。
「妻が、いるのか」
そこで初めて、男は、自らの失態に気がついたようだった。
違う、そう撤回しようとしたのだろう。開きかけた男の口は、けれどそのまま、二度と閉じることはなかった。
「覆水不返だ。何を言ったところでもう遅い」
男の喉を掻ききったところで、今は物言わぬただの死体となった男を見下ろして、木菟は手向け代わりにそう言った。
さて、と、木菟は踵を返す。
そろそろ向こうの様子でも見に行こうか。こちらの処理はまた後に回しても構わないだろう――と、
木菟は、自前の白い髪を夜風に靡かせた。
11.01.05
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