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真庭木菟 02
「外部の奴と一緒に仕事…ですか」

とある深夜の真中。
草木の茂る獣道を歩いていた真庭木菟は、声に滲ませた嫌悪を隠そうとはしなかった。
「そうは言えども、幕府のしのびだ。丸きりの外部ではあるまい」
聞こえた真庭鳳凰の言葉に、「さてね」と曖昧に返事をし、木菟はくるりと背後を振り向いた。
そこにいたのは鳳凰の長身ではなく、一匹の猫である。
「何か不都合でもあるのか?」
しかし猫の口から発せられるのは、間違えようもなく真庭鳳凰の声である。
忍法・音飛ばしという、真庭忍法の一種だった。余談ではあるが、木菟の忍法はこれを基底に、更に改良を重ねたものである。
木菟は鳳凰のこの言葉を受けて、獣道を物ともせず器用に後ろ向きのまま歩きながら、肩を竦めてみせた。
「不服じゃないと言えば嘘になる」
「仕方なかろう。今、真庭の里で手の空いている、ある程度の腕を持ったしのびというのも、おぬしを除けば喰鮫くらいのものなのだから」
「まあ確かに、喰鮫どのよりは適任かもしれないが」
そこで木菟は一度言葉を切った。そのぎょろりと大きな目が、訝るように僅かばかり細められる。
「そんなことより俺が気になって仕方ないのは、あんたが外部のしのびとの仕事を取り付けたっていう事実なんだが」
真庭忍軍の者は、少なくとも社会的に一線を画した性格の持ち主の者が多い。
それに真庭木菟もまた、例外ではない。唯一まともに社会的な性質を持っているのは、真庭鳳凰だけであると言っても過言ではなかった。
それもまた、この真庭鳳凰本人が把握していないはずがないというのに。
「そうやって共同の任務を請け負って、試し見して腕が良さそうなら、貰ってしまおうって算段か?」
木菟は一瞬の逡巡の結果、その答えを導き出した。
だが、真庭鳳凰は、木菟の考えとは裏腹に、「そうではない」と、あっさり否定する。
「まぁ、相手は女であるからな、どちらにしろ我の体には合うまいよ」
「…女なのか」
発せられた言葉にはやや驚きが混じっていた。それが木菟の声であるということを考えれば、中々に珍しいことではある。
ふぅん、適当に一拍置いて、木菟は目の前の猫に意味有り気な視線を向けた。
「俺の見解が外れたのだとしても…単純に、興味があるってだけじゃなさそうだな」
「さすがに鋭いな、木菟」
「あんたが興味を持つくらいだ。それなりの腕であることに相違はないんだろう。あんたの意図が何なのかは知らないが…」
木菟はくるりと足首を返して、進行方向に向き直る。
一寸先は闇であることに変わりはなかった。

「まあ、たまには唯々諾々と従わせてもらうさ」
その言葉の雰囲気は、不服だと言っていたことが嘘だとでもいうようだった。
実際、木菟は特に不服だったわけではなく、与えられた任務ならばどちらにしろ受けるつもりであったのだが。
「では、頼んだぞ」
鳳凰もまた、そんな木菟の性質を見抜いていたことに違いはないだろう。
その言葉を最後に、背後に確かに感じていた真庭鳳凰の気配は消えた。
ただの猫に用はないので、木菟は今まで消していた気配を明確にする。その気配に驚いたように、猫は何も言わず去っていった。
怯えられたことを意に介しもせず、木菟は歩を進めた。その足取りに、迷いは感じられなかった。


11.12.11
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